■北斗星
日本で独自に発達した数学を和算(わさん)という。江戸時代のレベルはかなり高かったらしい。何しろ「3・1415…」の、あの円周率を数十けたまで計算したというから
▼江戸中期に円周率の公式を見いだした建部賢弘(たけべかたひろ)の苦闘を描いた小説がある。題名はずばり、「円周率を計算した男」(新人物往来社)。およそ数学とは無縁の人でも、あくなき挑戦を試みる建部の思いが心にすっと入り込んでくる
▼作者の鳴海風(なるみふう)さんはこの作品で、4年に歴史文学賞を受賞した。これまで和算を題材とした意欲作を次々に発表。自動車部品を世界に供給するデンソー(愛知)のエンジニアでもあり、まさに二足のわらじを履く異色作家である
▼うかつにも鳴海さんが秋田育ちであることを最近まで知らなかった。生まれこそ新潟ながら、1歳で秋田へ。そして秋田高卒というから根っからの秋田人と言っていい。本名原嶋茂、52歳
▼高校の卒業式当日。保健室でさぼっていると校長から問い掛けられた。「汝(なんじ)何のためにそこにありや」。瞬間的に頭をガーンと殴られた思いにとらわれる。「今の自分があるのは、あの言葉のおかげ」。先日秋田市で会った際、胸の内を吐露した
▼会社の後輩に東野圭吾さんがいた。直木賞は先を越されたが「自分が直木賞を受賞できたら吉川英治文学賞は先に取る」。最近、江戸の天文学者を描いた「ラランデの星」(同)を上梓(じょうし)した。労苦をいとわず「夢はかなう」と言う姿に不思議な力を感じる。
(2006/08/05 10:44) |
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